硝子の破片の雨
「黒崎!!」
嘘みたいに大きく鳴り響いた硝子の割れる音と共に、きらきらと光る硝子片が一護めがけて降り注ぐ。
グリムジョーの目には、その光景はまるでスローモーションのようにゆっくりと流れて見えた。
自分の投げたボールが廊下の窓硝子に当たって、結構な力で投げたそれは当然の如く硝子を砕いて。
そのすぐ傍には、一護がいて。ウルキオラがいて。
突然目の前を横切ったボールに目を見開く一護を、ボールが硝子に当たる瞬間ウルキオラはその腕を引いて一護
の体を引き寄せ、そのまま自らの体で覆った。
ぱらぱらと、グリムジョーが思った程は多くない量の硝子の欠片がウルキオラの小さな背を滑り落ちる。
数秒前まで休み時間特有の喧騒に包まれていた廊下は、しん、と静まり返っていた。
「う、うるきおら…?」
何が起こったのか一瞬の事過ぎて理解の追いつかない一護だったが、ふと自分に覆い被さるウルキオラの顔を見
て我に帰る。
そこには、一筋の赤い痕。一拍置いてぷくりと玉の様な血が浮き出した。
「ウルキオラ…ウルキオラ!血が…っ」
「浅い傷だ。こんなもの何でもない。それより黒崎、怪我は無いか」
「あるわけねぇだろそんなの!!…ウルキオラが、庇ってくれたんだから…それより早く保健室にっ」
「怪我が無いなら、良かった」
そう言って笑うウルキオラを見て、一護は涙目になった。
大事な友人が怪我をしているだけでも大変な事なのに、それも自分を庇って。
その上怪我をしているのは彼のほうなのに自分の心配なんかしている。
「バカヤロウ…っ。いいからほら早く!あぁ、足も切れてるじゃねぇか!?」
「大丈夫だ。少し落ち着け黒崎。あぁそこは踏むな、破片が落ちてる」
怪我をした当人よりも余程慌てている一護を宥めながら、ウルキオラは保健室へと向かった。
と、その前に一護から離れ未だ呆然としているグリムジョーの元へと歩み寄ると彼の胸倉を掴んで顔を寄せる。
「ウル、キオラ、」
「…こんな怪我どうという事はないがな、グリムジョー。…だが」
間近に迫る彼の顔には、明らかな怒気が伺える。
普段物静かな印象のあるウルキオラとは思えない表情で、子供らしからぬ低い声で凄む。
「…万が一黒崎に怪我でもさせていたら、俺はお前を許さない」
「っ…!」
酷く冷たい目でグリムジョーを睨み付け、胸倉を掴んでいた手を離すとウルキオラは一護の元へと戻った。
辺りにはいつの間にか音が戻り、周囲は煩いくらいに何事かを喚いている。
せんせいだんしがとかだれかほうきもってこいとか、騒ぎを聞きつけた教師やそれを遠巻きに見る生徒達の話し
声がざわざわと騒音となって辺りを賑やかす。
やがて見ていた他の生徒からグリムジョーが騒ぎの原因だと聞いたのだろう、担任の教師が近寄ってきて、やお
ら説教を始めた。事が事だけに、いつもより大きな声でがなり立てる。
けれど、グリムジョーの耳には辺りの喧騒どころか目の前の教師の声さえ一切入ってはこなかった。
頭の中では、先程のウルキオラの声だけが何度も何度も木霊する。
『黒崎に怪我でもさせていたら、』
そんな事、言われるまでもなかった。
足に力が入らなくなって、ずるずるとその場に尻をつく。
がくがくと膝が震えて、それを覆うように体を丸め込んだ。
「一護…」
涙が出そうだった。心臓がどくどくと音を立てて、震える指先には温度が感じられない。
それは今までに感じた事のないような、明確な『恐怖』だった。
硝子の破片が一護めがけて雨のように降り注いだ、あの瞬間。
自分はただ立ち尽くすだけで何も出来ずに、見ていることしか出来なくて。
「一護っ…」
この世に生まれてきて十余年、グリムジョーは初めて知った。
―――好きな人を傷つける事が、何よりも一番怖い事なのだと。
2006.5.17 sakuto kamunabi BLEACH TOP
えーっと…説明入れなきゃ全く分かんないですけど一応小学生ウルグリ一…?(疑問符つきかよ)
でも最後に十余年って入れちゃったので中学生でも可。
っていういか、ウルキオラの口調で小学生ってのに無理があるっていうか(泣)。
でも最初に考えてたときに、ウルキオラの半ズボンとか想像して悶えてたので…!(お前最悪だ)
グリムジョーは一護が初恋なんだよ(笑)。