『俺が、お前よりでかくなったら、俺と一緒になってくれるか』

   『一緒にって…俺、男だけど』

   『関係ない。…嫌か?』

   『……嫌じゃねぇよ。…ん、分かった』

   『約束だ』




雲隠れの臥待月




   「と言うわけで一護、俺の嫁になれ」

   「…寝ぼけてんのか?」

   「約束だったろう?俺と結婚しよう黒崎一護」

   「えぇと、ヒツガヤさんでしたっけー?うち、精神科はやってないんで別の病院行ってくれます?」

   「至って正気だが」


   ふざけんな。


   一護は数年前から掛けている細い銀色のフレームの眼鏡を持ち上げる振りをしながら、軽く痛む気のする額を指

   で押さえた。依然取れることのない眉間の皺がさらに深みを増す。

   目の前の男の、自分を馬鹿にしているとしか思えない言動に内心は憤怒の嵐だ。

   
   今現在、黒崎医院の診察室においてその部屋の主である黒崎一護医師の怒りを買っている男、名を日番谷冬獅郎

   と言う。生きた人間ではなく遠いお空の上(実際どこにあるかなんて知りはしないが)にある尸魂界の住人であ

   り、隊長とまで呼ばれるおえらい死神様だ。
   
   その姿はと言えば。

   すらりと均整の取れた体躯は男性の逞しさをありありと感じさせ、極上の翡翠を思わせる瞳は艶を含んで細めら

   れればどんな人間(女性に限らず)でもイチコロではないかという程に大人の色気を醸し出す。

   細く小さかった手も、以前より二回りは大きくなってしっかりとした骨格が綺麗な線を描いている。

   それらを総合すれば、日番谷冬獅郎と言う男は一護の記憶にある姿とはまるで違う姿であることが分かった。

   …と言うか、一目瞭然で冬獅郎は大人の姿をしているのだ。だが。


   「どうした一護、さっきから黙ったままで。見惚れたか?」

   「呆 れ て ん だ よ !」

   「そうか?…俺は見惚れたがな」


   何だか蕩けそうな瞳で言われたが今更そんなこと言われても嬉しくもなければドキリともしない。

   当然だろ。

  
   「暫く見ないうちに綺麗になったな、一護?前より大人っぽくなったし」


   当たり前だ。いや綺麗云々はともかくとして。


   「ああそうですか。それはどうも。ところでヒツガヤさん。一つお聞きして宜しいですか」

   「何だ改まって。別に構わねぇが」

   「アレから何年経ったと思ってんだこの野郎?」


   思い切りいい笑顔で言ってやった。額に青筋くらいは浮いていたかもしれないが。

   一護の微妙な空気に冬獅郎はことりと首を傾げながらも、細い顎先を親指と人差し指で軽く撫でながら答えた。


   「…まぁ軽く二・三年ぐらいか?」

   「か・る・く十年以上経ってんだよこのアホ隊長!!」


   マジで精神科行って来い!!!


   


   藍染達の起こした騒動も何とか収まって、現世も尸魂界も無事平穏を取り戻した。

   俺はそれからも一応死神代行を続けていたが、藍染の創り出した虚がいなくなった為以前より随分とその数は減

   り、段々と普通の生活が送れるようになっていった。

   その当時の俺はと言えば、事件前より付き合っていた冬獅郎のことがかなり好きで、好きで好きで仕方なくて。

   しかも事件後にはプロポーズ紛いのことまで言われてしまって、ある意味この世の春だった。

   …振り返ってみると恥ずかしい事この上ないのだが(若気の至りってヤツだ!)。

   それでも、現世と尸魂界の隔たりも何のその。冬獅郎は忙しい合間を縫って現世へと降りてきては俺に逢いに来

   てくれたし、俺だって瀞霊廷まで逢いに行った。互いが何より愛しいのだと心で体で感じていた。


   だがしかし。

   ある日突然、ぷっつりと冬獅郎に逢えなくなった。


   現世には来なくなったし、まぁそれはきっと仕事が忙しいんだろうと何の疑いもなくそう思って此方から出向い

   てみれば、尸魂界中どこを探しても彼はいなかった。

   ―――正確にはいないんじゃなくて、逢えなかった、と言うか。

   冬獅郎は、恐らくは俺の駄々漏れな霊圧を感じ取ってはその場から離れるという、つまりは俺を避けるという行

   動に出始めたのだった。

   
   何故突然避けられなければならないのか、全く持って分からない。

   周りの人に聞いてみても、


   「隊長?別に普通じゃないの。何、あんた達会ってないの?」

   とか

   「シロちゃんだったら、さっきまでここにいたけど…あれ?用事でも出来たのかなぁ」

   とか

   「日番谷隊長ならここに…え、あれ?ちょ、どこ行っちゃったんですか日番谷隊長!?」

   …とかとか。


   それはもう悉く避けられて、流石に周りの人も違和感を感じ始めて本人に聞いてみたりもしてくれたようなのだ

   が、彼はただ

   「別に何でもない」

   の一点張りで、それ以上は答える事はなかったそうだ。


   それでもこれといって喧嘩をした覚えもなければ嫌われるような言動をした覚えもない俺は只管逢いに行って、

   仕舞いには霊圧を消す修行までして逢いに行ってみたのだが、やはり伊達に隊長はやってないらしくどう足掻こ

   うと冬獅郎に逢うことは叶わなかった。かなり腹を立てて、そしてちょっとだけ泣いた。

   それが最初の五年くらいだろうか。

   流石の俺も、その頃になるとああこれは何だか知らないが徹底的に嫌われたのか、顔も見たくないのだな、など

   と諦めを覚え始め(そうなるまでが矢鱈長かったのは俺の諦めが悪いとかではなくて偏に愛の成せる業だ)、

   結果尸魂界には近寄らなくなった。

   だって、行っても冬獅郎には逢えないから。



   失意の中でも俺は勉強して大学に入ってその他色々経験して、ついには医者になって実家の医院を継いだ。

   学ばなければならない事は山ほどあったし、そうこうしている内に月日は過ぎていって気が付けば冬獅郎に逢え

   なくなってから実に十年以上経っているのだ。

   だと言うのにこの男は。


   「今は現世での生活もあるだろう。こっちに来るまでは週末婚でもいいぞ」

   「あのな、」

   「まぁ死んで尸魂界に来た暁には日番谷の家に入ってもらうがなに、心配はいらん」

   「だから、」

   「うちには使用人なんてもんは必要最低限しかいねぇから、お前が二人っきりが良いと言うなら」


   止めさせてもと続く筈だった言葉はそこで途切れ、代わりにひゅっと何かが空を切る音が冬獅郎の耳に入った。

   ほんの一瞬視界に入った何かが頬を掠め、背後の壁に突き刺さる。びぃんと撓る音が静かな部屋に響き渡った。

   ひたりと固まった冬獅郎の目の前、一護はゆったりとした動作で徐に座っていた椅子から腰を上げ、前に座って

   いた冬獅郎を横切って背後の壁の所まで行くと、先程自らが放り投げたそれをもとの胸ポケットへとしまった。

   どうやら投げられたのはペンか何かだったようだ。ぴりりと微かに痺れた己の頬を冬獅郎は無意識に撫でた。

   軋む首を動かし一護の方を振り返れば、一護はペンの刺さった跡の残る壁に白衣の背を預け、腕を組んでいる。


   「…十年以上ほったらかしにしといて、いきなり来たと思ったら、結婚しろって?」

   
   そして、琥珀色の双眸を細めてにっこりと微笑った。


   「それ笑えるな冬獅郎?」


   まるで右肩に般若、左肩に菩薩を背負ったような何とも壮絶な笑みは、成程確かに時の流れを感じさせるに十分

   な成熟さを持っていた。

   昔よりも長めの前髪が、傾げられた首の動きに合わせてさらりと揺れる。

   少年らしさが抜け、どちらかというと中性的な顔立ちに乗せられた笑みはそれは美しい。

   そのあまりの迫力に、僅かにたじろいだ冬獅郎は思わずどうでもいい事を口走った。


   「あー…えぇと、その、ナンだ。ちょっとばかし寝過ごした…なんちゃって」

   「それも笑える」


   あ、違った。

   どうやら両肩とも般若だったようだ。


   ぶわりと一気に密度と重さを増した霊圧がさして広くもない診察室に充満して、息苦しささえ感じさせる。

   とても十年前の一護には出せなさそうな濃い霊圧を全身で感じて、冬獅郎はふるりと身を震わせた。









   「おかえりーシロちゃん。どうだった…て、聞くまでもないよねぇ」

   「ないわよねぇ。それで隊長、どうですか十年ぶりに逢った恋人にソッコー振られた感想は」

   「てめぇら…」


   尸魂界に帰ってすぐ、出会い頭に情け容赦ない言葉を浴びせてくる部下達を力なく睨み付ける。

   数年前までは見上げる形だったそれは、今では二人ともを見下ろすまでになってはいるが。


   「つかシロちゃんはやめろ。第一、てめぇらが言ったんじゃねぇか一護が今でも待ってるから行って来いって」

   「怒ってないとは誰も言ってませんよ?」

   「ていうか怒らないほうがおかしいよね」


   当然であろう。何の問題もなく付き合っていた恋人に突然避けられ、それが十年も経ってからひょっこりと現れ

   たのだ。感動の再開といくには些か時が経ち過ぎている。


   「それで?無事一護とはヨリを戻せたんですか?」

   「………がいた」

   「え、何?日番谷君、聞こえないよ」


   ぽそりぽそりと、非常に不満げに呟く冬獅郎に眉根を寄せた雛森がもいっかい言って、と俯く顔を下から覗き込

   むと、むっつりと精悍な容姿を歪めさせ地を這うような低い声で答えた。


   「…嫁が、いた」

   「………はぁ!?」

   「だから、一護に嫁がいたんだよ!」







   「とにかく、帰れ」

   
   にべもない。それでも何とか話だけでも聞いてもらおうと一護に詰め寄ろうとした冬獅郎だったのだが。

   
   「オイ一護、少しは俺の話を」

   『きゃっ!!』

   「―――あ?」

   
   どこか別の部屋から妙齢の女性のものと思われる何とも可愛らしい声と、何かの器具をぶちまけた様なけたたま

   しい物音が冬獅郎の耳に届いた。

   今の時間は丁度休診中のはずで、つまり院内には患者はいないはずだ。

   しかし、やはり続けて聞こえてくるのは若い女性の声だった。

   やだもう〜、と若干慌てたような声が徐々に遠くなっていく。


   「―誰だ?」


   訝しげに一護を見やると、その声のした方向を何やら困り顔で、しかし実に愛しげに眺めている。

   それに面白くないものを感じてもう一度強く一護を呼ぶと、ん、とこちらに振り返った彼は一度きょと、と瞬く

   と次いでにっと口角を上げた。

   そして、まるで勝ち誇ったように弾んだ声で告げる。


   「あれか。あれは、俺の嫁さんだ」

   「…うぇ?」


   我ながら間抜けな声を出してしまった。

   しかし、聞こえた事実があまりにも突飛過ぎたため、言語中枢すら上手い事働いてはくれなかった。


   「な、ん」

   「だから、俺の嫁さん。結婚したんだ、俺」


   ほら、と笑顔で左手を上げると、一護の細い左手薬指にはきらりと銀色に光る細身のリング。  

   一護が冬獅郎以外の人間のものであるという、確かな証だった。


   「じょ、うだんじゃねぇ!!そんな馬鹿な事…っ」

   「いや馬鹿なのはお前のほうだから。それにあんな昔の約束なんて、十年も経てば無効だろ」

   「一護、俺がお前の前から姿を消したのは、」

   「知ってる。背ぇ伸ばそうとしてたんだろ。何年か前に乱菊さんたちから聞いたからな」


   聞いたときは、何て馬鹿な男だろうと呆れるばかりだった。

   実際冬獅郎が気にしているほど一護は彼との身長差など問題にしてはいなかったので、そんな彼の思考回路の極

   端さが一護には全くもって理解不能だ。

   けれどだからこそ、その時一護はその後の自分が歩むべき道を決めたのだ。


   ぴらぴらと、これ見よがしに銀色がちらつく左手を振ってやる。

   それを目に入れていながらも、冬獅郎は茫然自失の状態で瞬きも忘れているようだ。

   そして彼は気が付かないのだ。

   目の前で揺れるリングが、僅かばかり一護の指にサイズが合わず遊びを残している事に。



   「まぁそういうことだから。お忙しい隊長さんは、とっとと尸魂界に帰ったらどうですか」

   「考え直せ。ていうか別れて俺のところに来い」

   「ほんと馬鹿だなてめぇは。んなの無理に決まってんだろ。…ああ、それと残念なお知らせがもう一つあるな」

   「あ?」


   未だ居座る冬獅郎を部屋から追い出すべく、襟首を掴んで無理やり持ち上げると至近距離に顔を寄せて目線を合

   わせる。すると、悲しいかなほのかに床から離れた冬獅郎の踵。


   「良かったなぁ大きくなって。でもご愁傷様だ。まだ俺のほうが3センチ高い」

   「な」


   冬獅郎は、再び言葉を失った。

   座ってたから気が付かなかったんだな?と笑いかけてやれば、目を瞠って自分の足元と一護の目とを交互に見や

   る。そしてさぁ、と一気に顔色を悪くした。


   「これじゃ例え約束が有効でもお前んとこにはいけねぇな。というわけだ、大人しくお帰り下さい日番谷さん」


   笑顔で言う一護に摘み上げられて、院の外に放り出された冬獅郎は納得がいかないとばかりに一護に手を伸ばし

   たが、そっけなく振り払われてしまった。無情にも扉は閉まっていく。


   「ああ、まぁ俺がそっちに行ったらそん時は考えてやるよ」

   「一護!」

   「それまでは二度とくんな」


   ばたんと音を立てて閉じた扉を、冬獅郎は暫くの間呆然と見つめていた。




   「ふぅ…全く」


   何だか一気に疲れてしまった。

   後ろ手にドアノブを握り締めて、一護は深く溜息を吐いた。

   何せ十年ぶりの再会だ。乱菊たち他の死神から話は聞いていたとしても、実際本人を前にすると非常に心が乱れ

   て仕方がない。

   もう一度息を吐くと、奥からパタパタとこちらへ歩いてくる女性に声を掛けられた。


   「あれ、お兄ちゃんお客さん帰っちゃったの?」

   「おう、遊子。今さっきな。それよりお前、さっきまた何かやらかしたろ。診察室まで聞こえたぜ?」

   「あ、あはは…ごめんなさーい」


   口元に手を当ててちょっと困ったように笑う彼女は、もう立派な女性へと成長している。兄として誇らしくもあ

   るが心配でもあるものだ。未だにおっちょこちょいなところも。


   「気をつけろよ、薬品とかガラスとかだったら危ないだろ。お嫁にいけなくなっちまうぞ」

   「もう、大きなお世話ですー!て言うかお兄ちゃんたら、何で指輪なんかしてるの?」

   
   遊子が指差すそれは、一護の左手薬指でその存在を主張する銀のリング。

   一護の指には若干大きめのそれは何の抵抗もないままするりと指から外される。

   二本の指で摘みあげると、遊子のてのひらにぽとりと落とした。


   「まぁ何となくな。それ、昨日来た患者さんの忘れもんだから、来たら返しといてくれ」

   「お兄ちゃんってば、そんな人のものなんかつけて遊んでないで、いい加減結婚したらいいのに!」   


   勿体無い!と些か見当違いなことを言いながら怒る妹に手を振り、診察室へと戻るべく歩き出した。

   そろそろ午後の予約が入っている時間だ。
   

   「俺はいいの。お前が先に結婚しろ」

   「だから〜っ、…でも先にってことは、一応結婚する気はあるんだ。誰かいい人―――あ!」

   「ん?」

   「さっきお客さん来てたんでしょ? もしかしてお兄ちゃんの彼女っ!?」

   「―――いや?」





   俺の婚約者様だよ。





   「え?お兄ちゃん今なんて言ったの?」

   「何も言ってねぇよ。いいからほら、午後の準備するぞ」


   口の動きだけで告げたそれは当然読み取られる事はなく、首を傾げる遊子を置いて歩き出すと一つ大きく背伸び

   をした。

   ―先程、遊子を嫁だと告げたときの隊長殿の顔といったらない。折角の男前も台無しな間抜け面だ。

   思い出すだけで笑いが込み上げてくるのを、口元に手をやって必死で堪える。

   第一、少し考えれば女性が一護の妹であるとか、指輪の事だってその場で分かりそうなことだ。

   それを見抜けなかったのは、それだけ一護に嫁、という事象が冬獅郎に衝撃を与えたという事だろう。愉快だ。

   自分は十年以上も待ってやったのだから、これくらいの意趣返しなど可愛いものだろう。



   
   『仕方ない、待ってやるか』


   が、冬獅郎が一護より大きくなるまで会わないつもりらしいという自分勝手極まりない事実を乱菊たちに聞いた

   ときの一護の答えだった。

   雛森や恋次などは怒っていたし心配も相当してくれたようだったのだが。

   それでもなんて愚かなと思う前、話を聞いた瞬間に、一護は思ってしまったのだ。

   冬獅郎が自分を想ってくれていることが、嬉しい、と。

   ただ嫌われた訳でもなく変わらず自分を想っているのだと、そう思ったら安心して、気が抜けて、それからまぁ

   普通に腹を立てた。

   あんな愚かな男を愛した自分は、やはり同じように愚か者だったという事だ。それはそれで構わない。

   一護が言った台詞だって、大して深く考えてもいないのだろう。

   一護は言ったのだ。俺がそっちに行ったら考えてやると。

   ―――何も、死んで尸魂界に行ったら、とは言っていない。


   堪えきれずくすりと一つ笑みを零すと、ぐるりと首を回してこきこきと肩を鳴らす。


   「あー、死神化なんてすっげぇ久しぶりだよなぁ」


   さて、いつまで待たせてやろう?








   「「ぶっ…あははははは!」」

   「何がそんなに可笑しいんだてめぇら…」


   その視線を向けられただけで逃げ出したくなるような怒りのオーラを纏った冬獅郎の睨みに、乱菊と雛森はしか

   し一切動じる事無く笑い続けた。いや可笑しい。もの凄く可笑しい。

   一護に嫁が、なんてことを易々と信じている冬獅郎が、そしてそんな事を言い出した一護がだ。

   二人は知っている。一護が結婚なんてしているはずがない事も、それから―

   未だ、冬獅郎を想い続けているという事も。

   冬獅郎が一護を避け始めた事に気が付いてからというもの、二人を初めとした多くの死神が彼の元を訪れた。

   それは純粋に一護に会いたいというのもあったし、一護を心配して訪れるものや、今が好機と誘いをかける者も

   多数…というより後半はそんな輩ばかりだった。

   けれど、一護の答えはいつも決まってこうだった。


   『俺が好きなのは、冬獅郎だけだから』


   悪いな、とどこか淋しそうに言う一護に、結局は誰も何も言えなくなってしまったけれど。

   そして、冬獅郎が一護を避けた理由を知らせた時も、一護はそれならば待つと言ってのけた。

   彼に自分を想う気持ちがあるのなら、それ以外の選択肢など存在しないのだ、と。

   そんな一護が、今更冬獅郎以外の人間と結婚などする訳がない。

   一護を想う死神たちは、誰一人それを冬獅郎本人に告げることはしなかったが。(告げようと思う者がいても阻

   止されていたようだ)冬獅郎はといえば何をいっても聞く耳を持たなかったので、雛森と乱菊は一護のところへ

   暇を見つけては訪れて冬獅郎の様子を報告していたのだった。少しでも一護の慰めになるのならと。


   「くそっ…」

   「それでどうするの、シロちゃん?一護君、諦める??」

   「んな訳ねぇだろ。あいつは俺のだ。他の誰にも渡す気はねぇよ」


   よくもまぁ言えたものだ。散々放っておいたくせに。

   けれど一護が許しているのなら、彼女達の取るべき行動も決まっているのだ。

   とりあえずは、一護の可愛らしい復讐の行方をじっくり見守る方向で。

   勿論、こんなことで諦めるような男ならとっくに一護は他の人間が攫っている。

   これからが見物なのだ。


   「ま、頑張ってくださいよ。あたし達はちょっとしか邪魔しませんから」

   「そうそう、ちょっとだけ邪魔するだけだから」

   「邪魔すんのかよ!?」


   恐らく一護とて、一筋縄ではいかない筈だ。

   そう簡単に纏まられては、今まで気を揉まされてきた自分達の気が治まらないではないか。




   さてはて、遠い日の約束が果たされるのは、一体いつのことになるのやら。






   2006.6.18 sakuto kamunabi     BLEACH TOP

  別 人 す ぎ !!でほんと申し訳ない感じですがorz
   えぇと、テーマは駄目日番谷で(嘘です白衣に眼鏡の一護が書きたかっただけです)
   実際おいくつなのかは分かんないんですが(え)大人一護は綺麗だろうなぁと。
   あと日番谷さんは背を気にしててもそうじゃなくてもどっちでもいいので
   今回は極端に気にする方向で!(おいおい)
   ちなみにタイトルは適当ですがお前どんだけ出てこないんだよって話です(笑)。