Two Similar Soul
「それでですね。聞いておられますか黒崎様」
「お、おう。聞いてるよ」
「それであろうことかチャッピーが…」
目の前で一生懸命に話す彼に問いかけられて咄嗟に返事を返したものの、けれど一護の意識はどうしても話から
逸れてしまいがちだった。
今一護の前で喋っているのは、普段お世辞にもよく喋るとはいえない男だ。
銀色に光る髪。透き通った翡翠色の瞳。身長の割に、少し低めの声。
それはまさしく、十番隊隊長日番谷冬獅郎その人の姿だったのだが。
だが明らかに何かが違っていた。
姿だけ見れば、違うところといえば精々がいつもの死覇装に白い羽織の姿ではなく一護と同じ空座高校の制服を
着ているという位で、しかしそれもここ最近では見慣れたものになっていたので然程の違和感を感じさせるもの
ではなかった。
が、しかし。
「…と言う訳なんです。あまりに酷いとは思いませんか黒崎様。黒崎様?」
「…とりあえず黒崎様は止めてくれ…」
平素の日番谷の人となりを知っている者からしてみれば、それはものすごい違和感だった。
何よりもまず目の前の彼はお喋りで、先程から何とも他愛のない話ばかりをやたら楽しんでいる様子である。
常にはない饒舌。いつもなら威嚇するように険しく顰められた眉間にも今は皺一つなく、何ともあどけない表情
でこちらを見ている。
(こ…こんなの冬獅郎じゃねぇ…!)
なんて心の中で叫んでみても、それがまぁその通りなので如何ともし難い。
そう、つまり。それは日番谷冬獅郎の姿ではあるが、日番谷冬獅郎の魂ではなかった。
義魂丸。…ってこんなモノだっただろうか。
そもそも一護が使っているものが既にイレギュラーな(所謂”そーわるぴん”)タイプだったので、普通、という
規格が分からないが。
「しっかしあんた、何て云うか…元気ねぇ…」
「そうでしょうか。あのウサギのほうがよっぽどだと思いますが」
やはり違和感があるのは一護だけではないらしい。隣でテーブルに肘をついてそれを支えに頬杖をついていた乱
菊は、半ば感心したような様子でそのよく喋る冬獅郎、もとい義魂丸の入った冬獅郎の義骸を眺めていた。
「そういえば、朽木さんの身体に入ってたコも元気だったねぇ!」
あははは、なんて笑いながら乱菊とは反対の位置に座っていた織姫が、同じく義魂丸を見てはにこにこと話しか
けている。先刻から専らこの二人の間で話は進んでいた。というか、織姫によって彼のお喋りが冗長さを増して
いた。
それを、時々話を振られては適度に相打ちを打ちつつ微妙な気持ちで見つめていた一護は、あまりにも普段とは
かけ離れた自身の恋人の姿をしたそれを、どう扱って良いものかいまいち掴みかねていた。
まずもって、「黒崎様」である。まさか冬獅郎(の姿と声)にそんな風に呼ばれる日がこようとは。
いつもならたとえ下からであってもまるで上から見下ろされているような余裕たっぷりの視線でもって一護を眺
めやり、41cmの身長差も何のその器用に彼を引き寄せては耳朶に触れるか触れないかのところで
「一護、」
なんて低く囁いてきたりするのであるが(そんないらん事まで思い出さなくてもよかった。何か居た堪れない)。
それと同じ姿で、いつもより少々高めの声で苗字に様付け。しかも敬語。おまけに座り方まで違ってちょこんと
正座だ。
なんというか、今の彼は非常に見た目年齢相応だった。
虚退治の後に報告があるとか何とかで冬獅郎に先に帰されてしまった一護たちはそのまま彼の義骸のある織姫の
部屋へと戻ったのだが、そこで待っていたのは三つ指をついて出迎える日番谷冬獅郎。
「お帰りなさいませ」
正直かなり度肝を抜かれたが、そういえば死神化するときにソウルキャンディを使っていたな、と思い出した。
あまりのギャップに軽く眩暈を起こしかけたが、よくよく考えればルキアが使ったときも何やらおかしな輩が入
り込んでいたのでまぁそういうこともあるのかと納得しかけたのだが。
当の冬獅郎がいない為丸薬に戻る事も出来ず結局帰ってくるまではとそのままその姿の彼とテーブルを囲めば、
彼は実に楽しげに織姫たちとお喋りを始めたのだ。
織姫や乱菊たちは割りとすぐに慣れたようで、義魂丸についてなど色々と話に花を咲かせていたが、やはりどう
にも一護は慣れる事が出来ずにいた。
そうした気持ちからどこか困ったような顔で自分を見る一護を見て、冬獅郎の義骸に入った仮の魂魄はふと悲し
げに目を伏せた。
後編へ続く…(泣)。 BLEACH TOP
2006.4.7 sakuto kamunabi
何か無駄に伸びたので前後編に(じゃあ省けよ)。
そんな長くもないんですけど何かだらっとしちゃったので。
文章を上手く纏められない自分が憎い…!
明らかに義魂丸の設定とか無視しちゃってますが、そこらへんはフィーリングで読んで頂けるといいかと。
だってチャッピーが可愛かったんだもの!
個々に性格があるわけじゃなくてその人による物だとは思うのですが。