Two Similar Soul  中編





   「ねぇ、どうしたの?」


   ふと耳に入った織姫の心配そうな声に顔を上げると、悲しげにこちらを見つめてくる冬獅郎(の、義骸!)と眼が合

   った。その表情に、本人ではないと分かっていてもどきりとしてしまう。


   「あー…、その、どうした?」


   何だか落ち着かなくてぎこちないながらも声を掛けた。

   思わず俺何かしたか、と問いたくなってしまう程、その顔は悲壮感に満ちていた。


   

   「黒崎様は…私と話すのはお嫌ですか?」

   「…へ?」


   

   突然何を言い出すのかと思えば。だが、眉を八の字に寄せてこちらを伺うようにして見つめてくるそれは、今に

   も泣き出してしまいそうだった。


   「な…んで、別に俺は」

   「ですが、先程からあまり私と眼を合わせては下さいません」

   「あー…それは、その」

   
   そう言われると言葉に詰まってしまう。確かに彼に出会ってからこっち、一護はその姿を目に入れながらも眼を

   合わせようとはしなかった。

   だって、どうしても落ち着かないのだ。その、冬獅郎と同じ翡翠の瞳を見てしまうと。


   どう答えていいか分からずもごもごと居心地悪そうにしている一護から視線を外さないまま、ポツリと零すよう

   に彼は話し始めた。


   「私は…ずっと、黒崎様にお会いできる日を楽しみにしていたのです」

   「え、何で?つーか俺のこと知ってたのか??」

   「はい、私たちの間では黒崎様は有名です。他の義魂や死神様方から、よくお話を伺っておりました」


   私たちの間で、というのはもしかしなくても義魂丸の間でという事だろうか。

   そんなコミュニティがどこに!?

   と全員ツッコミたい気満々だったが、彼の義魂の真剣な様子に口を挟む者はいなかった。


   「改造魂魄。お助けになったでしょう」

   「改造…ああ、コンの事か」

   「死神の皆様方は、作られた義骸用の仮の魂魄として私たちを使って下さっております。

    ですが貴方はまだ生きている人でありながら、粗悪品として破棄されたと分かっている筈のあの魂魄に自らの生

    身の体を任せておられる。あまつさえぬいぐるみにその魂魄を宿らせ共に暮らしているとか」


   そこまで言ってから、彼はふと眼を伏せ胸に手を当てた。


   「…どんな、方だろう、と。そうして、作られた魂魄でさえ一個の魂として扱ってくださる貴方様に。

    ずっと、お会いしたかった」

   「そんな大層なモンじゃ…」

   「いいえ、実際一目お会いしてみれば分かる事でございました。身の内から溢るるその魂の光。全てを優しく包み

    込むその霊圧」


   眼を伏せたまま語る義骸を前に、一護はいい加減耐えられなくなってきていた。

   むず痒い。頼むから、冬獅郎の姿でそんな風に語るのは止めて欲しい。


   「ずっとその傍らにと、願わずにはおられない。なるほどあの日番谷隊長の想い人というのも頷けます」

   ぎゃ!!

   「な、何だそりゃ!?何でそんな事まで…!」

   「それもこちらでは有名な事ですよ?あの難攻不落の日番谷隊長殿を落としたすごい方だと」


   思いの外下世話な奴らだ。後ろのほうで黙って成り行きを見守っていた乱菊が小さく噴き出した。


   「ですが…やはり私のようなものが黒崎様と親しくなりたいなどとはおこがましい事でありましたでしょうか。

    まして義骸とはいえ日番谷様のお体をお借りしている訳ですし…」


   嫌われてしまっても仕方がないのかも知れません。

   そう言って、彼はうるりとその翡翠の瞳を潤ませた。

   
   ぴしり、と一護は固まった。


   (あ……ありえねぇ…!!!)


   絶対的にありえない上司の表情に、乱菊は後ろで爆笑寸前、ばしばしと床を叩いている。

   
   が、一護にはまた違った変化を齎した。


   「…おい、その…違うから、な?顔上げろ」

   「黒崎様…?」


   言われた通り顔を上げてみれば、一護は先程までの困ったような表情とは違い穏やかな顔をしている。

   
   「や、だからさ、別にお前の事が嫌いとかそういうんじゃねぇよ。ただちょっと…慣れなかっただけで」

   「ですが…」

   「それとさっきも言ったけどその黒崎様ってのも止めろ。んで、お前、名前は?」

   「名前など御座いません。我等は所詮仮の魂魄であって、一個の存在として扱われるものでは」

   「でもこうして話してるんだから、お前は今ここに存在してるって事だろ。でもそうか、名前ねぇのか…」


   そういやコンも俺が名前付けたんだっけ。

   うーん、と口元に手を当てて考えると、暫くして一護はまっすぐに彼の瞳を見た。


   「月並みだけどシロ、とかじゃ駄目か?一応冬獅郎の義骸に入ってる訳だし。

    それとも他に何か好きな名前とかあれば…」

   「名前を…頂けるのですか…!?」

   「だってお前は、日番谷冬獅郎じゃないだろ。けど他に何て呼んでいいか分かんねぇし」

   
   目の前で笑ったり泣いたりしている彼を、物として扱う事など出来はしない。

   けれど先程から、義骸だの義魂だの魂魄だのと、どう彼に呼びかけたものか困っていたのだ。

   流石に、冬獅郎とは呼べないからなぁ。


   どうだ?と問いかければ、彼は大きな瞳をいっぱいに見開き呆然としている。

   と思ったら。


   「…黒崎様…!!」

   「ぅおわっ!」


   突然がばりと抱きつかれてしまった。

   ほんの一瞬うろたえたが(だってやっぱり冬獅郎の姿だし)、すぐに気を取り直し彼の様子を見ると、どうやら

   感極まっている様だ。まるで子供の様にぎゅっと一護の服にしがみ付いて離さない。

   
   そう、彼はまるで子供の様だ。

   話し方こそ馬鹿みたいに丁寧だが、ころころと変わる表情やしゅんとして項垂れる様などが、まるで妹の遊子の

   様で。そう思ってしまえば、もともと年下に弱い一護はつい甘やかしたくなってしまうのだった。

   
   「だから、黒崎様は止めろって」

   「…では、一護様とお呼びしても?」

   「いやだから、様付けを止めろって…まぁ、何でもいいや。好きに呼べよ。…シロ、?」

   「はい!!…ありがとうございます…!」


   冬獅郎だと思うからいけないのだ。

   彼は、シロは喜怒哀楽の激しい子供。


   シロは笑顔全開で一護を見上げている。パタパタと尻尾まで振っていそうな勢いだ。


   ちょっと可愛い…かも。なんて思ってしまって、よしよしと頭を撫でてやれば嬉しそうに目を細めた。


   「一護様ーvv」


   先程までの畏まり様はどこへやら、甘えモ−ド全開である。



   そんな二人の様子を微妙だなーと思いつつも微笑ましく見守っていた乱菊だったが。

   ふとその笑みを引きつらせ、いやに重々しく口を開いた。


   「…何か楽しそうなとこ悪いけど、シロ(でほんとにいいのかしら)。

    あんたあんまり調子に乗り過ぎない方がいいわよ」

   「松本さん?どうしたんだ」

   「…冬が、来るわよ」

   「…??」


   松本の不可思議な言葉に一護が首を傾げていると。


   
   ひゅおぉっ。



   突然、部屋中に冷気が立ち込めた。




   後編へ!

   2006.4.23 sakuto kamunabi               BLEACH TOP

   ちゅ、中編て…!!何だそりゃな感じですが(汗)
   あまりにも前編とのバランスが悪かったので切りました。
   それにしてもほんとに月並みというか…シロって。
   他に何も思い浮かびませんでした…orz
   でも一護は実はそう呼べるのが嬉しかったりなんかして(笑)。