Two Similar Soul 後編
「…てめぇら何してやがる…」
「冬獅郎!」
玄関には、身も凍るような冷気(霊気?)を纏った日番谷冬獅郎御本人が立っていた。
怒りの冷気が肌に痛い。
しかし、明らかにそもそもの主人の不興を買っているであろう本人は堂々としたものだった。
「これは日番谷様、お帰りなさいませ」
「それはあれか?一護の腕の中で言うべき事なのかそこの義魂丸」
青筋を立てて一息で話す冬獅郎の剣幕に軽く一護が押されている間に、ここへ来てまたもや織姫が緊張感の欠片
もない声を発した。
「違うよ日番谷君?今さっきね、名前がシロ君って決まったんだよ!」
可愛いよね〜、黒崎君がつけたんだよ、と何故か嬉しそうに語る織姫。
そして益々上がる(というか下がる)室内の霊圧。
乱菊はあいたた、と頭を抱えた。寒い。あらゆる意味で寒い。風邪引きそう。
「隊長、とりあえずはちょっと落ち着いて…」
「誰がシロか!!!一護から離れやがれっ」
聞いていない。
まぁ当然であろう。仕事から帰ってみれば妻が自分の部下と抱き合ってもとい、最愛の恋人に義骸が馴れ馴れし
くもへばり付いているのだから。
「一護様…」
おまけに、がなり立てる冬獅郎の剣幕にまるで怯えたように一護の腕に縋り付いている。
あんたそんなキャラでしたっけ。
「帰ってきていきなり何そんな怒ってんだよ。
つぅか、あんまシロ苛めんなよ?ちっさいのに怯えてんじゃねぇか。相手は子供なんだから」
「仮の魂魄に子供もくそもあるか!!第一ちっさいは余計だ、それは俺の身体だ!!」
「あ、そうか」
暢気にぽん、と手を叩く一護の姿に、冬獅郎は怒り心頭。ぎりぎりと歯を噛み締め、一護が何に対して納得した
のだかとかいい加減に離れやがれとか最早何に怒っているのか分からなくなっている。
すわ爆発かと思われた冬獅郎の精神は、しかしてそこは流石の年長者であり隊長殿。すぅと一息吐くと、それま
での剣呑な空気を収め大人の表情で二人を見遣った。
「…もういい、いいから、そろそろ丸薬に戻りやがれ。俺も義骸に入る」
「え、もう戻るのか」
「もうじゃねぇだろ!いいから貸せ!!」
「あ、いち」
ごさま、と続く筈だった声はそこで途切れ、代わりにころりと薄碧い丸薬が転がり落ちた。
一瞬の事で戸惑いながらその丸薬を見つめる一護を後目に、無事義骸に戻った冬獅郎はすぐさま小さなそれを拾
い上げると、
ぺいっ。
…と窓の外へ放り投げた。
「…あ―――――っっ!!」
辺りには一護の絶叫が響き渡る。
それを無視して冬獅郎は一人満足げというか如何にも清々した、といった態度だ。
耳を塞ぎながら乱菊は少々呆れ顔で上司を見ていた。成程、大人なのは表情だけだったようだ。
子供ですかあんたは。
「何てコトすんだよ冬獅郎!?あれじゃシロが…っ」
「使い終わった義魂丸をどうしようと俺の勝手だ。まだちゃんと残っているしな。
まぁ、もうあんな粗悪品は出てこねぇだろ」
「そんな…っ」
まるで弟のように懐いてきた者を突然奪われ、一護はうっすらと涙目だ。それを目にして一瞬うろたえた冬獅郎
だったが、やがてふいと顔を背けてしまった。抗議は受け付けないようだ。大人気ない。
「っ俺、探して来る!」
「おい、いち…」
「待ちなさいよ一護」
今にも飛び出していきそうな一護を、乱菊はその足首を引っ掴んで止めた。
突然脚を取られつんのめる一護。咄嗟に壁に手をつき、何とか転倒は免れた模様。
「ぅおっ!ま、松本さん危ねぇ!!」
「あらごめんなさい。でもちょっとお姉さんの話を聞きなさい」
暫く逡巡したあと大人しくその場に座り込んだ一護を見て、乱菊は溜息を吐いた。
正直今この場で口を挟むつもりなど毛頭なかったのだが、一護のその目は未だうっすらと潤みを残している。
それを見てしまっては、たとえ上司の機嫌を著しく損ねると分かっていても、放って置く事は出来ないのだ。
…まぁ、どうせいずれ分かる事だし。
「心配しなくても、大丈夫よ一護。アイツにはまた会えるから」
「…松本さん?」
「どういうことだ松本」
乱菊の言葉に、それまでそっぽを向いていた冬獅郎が反応する。その声は、何を言い出しやがるとまさに不機嫌
そのものだ。そんな冬獅郎をちらりと一瞥し、そしてまた一護に視線を戻す。
一護を泣かせる隊長なんか知りませんよーだ。…自分も大概大人気ないのかも知れないが。
「隊長は取説読まなかったんですか。駄目ですよ?ちゃんと理解してから使わないと」
「松本さん、大丈夫ってどういうことだよ」
外に落ちた義魂丸の行方が気になって仕方がないのか、うずうずと落ち着かない一護に軽く笑ってやる。
「別に一個呑む度に違う魂が宿るわけじゃないのよ。丸薬はあくまで媒体みたいなもんだから。
あれを呑むと、その魂に合わせた“理想的な性格”の魂魄が宿る、らしいの」
「松本さん?つまり、どういうことなんだ??」
「だから、この先隊長が何度あれを呑んでも、まぁ仮に新しいのを買い直しても義骸に入るのは同じ性格の義魂…
つまり、シロが出て来るわけよ」
わかったかなー?と顔を覗きこみながら頭を撫でてやると、泣きそうだった一護の表情は徐々に明るさを取り戻
していく。それに反して冬獅郎の顔面は蒼白だ。
「な…あれのどこが理想的な性格なんだ!?おかしいだろ!」
「そっか…!じゃあ、またシロに会えるんだな!?何だ、良かったー。
俺コンはいつも同じの使いまわしてるから、てっきり他のもそうなんかと」
「良かったねー黒崎君!」
「あんたのあれは改造魂魄だからでしょ。毎回出して呑んでじゃ不衛生じゃないの。ケースで買う意味がないし」
「あーそっかー…確かに面倒なんだよなあれ」
「シカトしてんじゃねぇ!一護も喜ぶな!!…くそ、二度と義魂丸なんか使わねぇぞ…っ」
「それは無理なんじゃないですか。だってほら、何かまた虚の気配が」
「何!?」
ぎりりと握り潰さんばかりの勢いで手に握ったソウルキャンディのケースを睨み付けている間に、またしても虚
の出現。当然、気配を感じるほど近いのなら自分たちが行かない訳にはいかない。
だが、今またこの義魂丸を使うのは嫌だ、絶対に嫌だ。
「ほら隊長、行きますよー」
「どうした冬獅郎、早く…あ、そういえば俺コン家に帰しちまったんだよな。
井上、悪ぃけど俺の体見ててもらってもいいか」
「うんいいよ。気をつけてね黒崎君」
「それなら、俺も…っ」
その手があったかと嬉々として顔を上げた冬獅郎だったが、突然一護がくるりと冬獅郎へと向き直り、その手に
持っていたソウルキャンディをぱっと取り上げてしまった。
咄嗟の事で反応が遅れた冬獅郎は、やはり次に起きた事にも冷静に対処が出来なかったのである。
ケースから一粒、丸薬を取り出した一護は、
「冬獅郎」
「一護?」
徐にそれを冬獅郎の顔の高さまで持ってくると。
「はい、あーんv」
「あ?」
「ん」
ごっくん。
次の瞬間冬獅郎の魂魄は義骸から離れ、そしてそこには同じ顔がもう一つ。
「一護様!!」
「おう、シロ!松本さんの言う通りだったな、良かった」
「 ………。」
再会を喜び合っている二人の後ろで、冬獅郎は一人がくりと膝をつき項垂れていた。
先程の己の愚行に打ちひしがれる彼であったが、一体誰が責められようか。
唯でさえ照れ屋で意地っ張りな所があり、凡そああいった行為をする事など皆無な恋人が、笑顔で『あーん』。
例え差し出されたのが毒の林檎であったとしても口を開かずにはいられまい。
「良かったですねぇ隊長、一護にあーんってしてもらってv」
副官の厭味を無視しつつ目線を上げれば、またしても義魂(誰がシロなんて呼ぶか!!)は一護の腰の辺りに纏わ
り付いている。射殺す勢いで睨み付けてみれば、視線に気付いたのかふとこちらを振り返ると。
「どうかなさいましたか日番谷様?」
こともあろうに、にっこりと笑ってのけやがった。しかもまるで邪気の無い笑顔で。
(かっわいくねぇ…!!!)
他の隊長共の様に敵意も顕わに突っかかってくるのならまだ可愛気もあるものを。
何だその、まるで相手にもしていないような態度は!!
可愛くない。ぜんっっぜん、可愛くない!
「いっ…いい加減にしろ―――!!」
「はぁ…」
「乱菊さんどうかしたんですか?」
「いや…何か微妙な光景だと思ってねぇ…」
目の前では二人の日番谷隊長が一護を巡って言い争い(というよりは一方的に冬獅郎が切れているだけの様だが)
をしている。皆さん元気のよろしい事で。
「でもああしてると、日番谷君とシロ君て兄弟みたいですよねーv」
「…え」
それはちょっと。どうなの織姫。そりゃぁ、見た目は瓜二つ(当たり前)ではあるが。
だが冬獅郎の言うように、中身はどこが“理想的な性格”なのかと思うぐらい違いがあるのではなかろうか。
「…どこら辺が」
「う〜んと、性格とかも似てるなぁって思うところもあるし…それとやっぱり」
黒崎君のコトが大好きなところ??
ちっちゃい子供がお母さんを取り合ってるみたいじゃないですかなんて笑って言ってのける織姫に、乱菊は何だ
かもの凄く脱力してしまった。
ああそうね。そうかもね。
未だ騒いでいる三人を生暖かく見守りつつ、これからの事を考えると少々頭の痛い乱菊だった。
もっとも、それはそれで自分は楽しんでしまうのだろうけれど。
そんな自分に苦笑を隠せないでいる乱菊の隣で、今度は織姫が何やら思案顔。
「どうしたのよ織姫?」
「ええと…虚退治しに行かなくていいのかなぁ、って」
「「「あ」」」
その数秒後、脱兎の勢いで部屋を飛び出す三つの黒い影を、笑顔で手を振り見送るシロの姿があったとか。
おしまい!
2006.4.26 sakuto kamunabi
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何この痛い子達…!何ていうか…日番谷さんがアホですみませんorz
日番谷隊長は男前で大人でかっくいいお方だと私は思っておりますよ、ええ。
一護の事となると、ってヤツですよ!(無理やりだなオイ)
ちゃんと日一になってるか甚だ疑問ではありますが、
ここまでお付き合いくださった方ありがとうございました v