最初の嘘





「一護様ー!」


ぱたぱたと小さな体を弾ませて、冬獅郎が俺を目掛けて駆けてくる。

もとい、冬獅郎の義骸に入った義魂丸のシロだ。だって冬獅郎はあんな走り方しないし。

シロは何故か俺をとても慕ってくれていて、いまだに様付けを止めてくれない。ちなみにシロの名付け親は俺だ。


「シロ、どうした?」

「朽木様から、今日が一護様の誕生日だと伺いました」

「なんだ、それでわざわざ来てくれたのか?」

「はい。おめでとうございます一護様っ!」


息を弾ませて、ほんのりと赤く染まった頬で元気よく笑うシロは外見年齢相応でとても可愛い。

外見は冬獅郎なのに、中身が違うだけでこんなにも別人に見えるのだから面白いものだ。


「ありがとな、シロ。すげぇ嬉しい」


笑ってふわふわとした白い頭を撫でてやれば、目を細めてはにかむように笑っている。

しかし、ふと顔を上げると少しだけ申し訳なさそうな顔でポツリと声を出した。


「申し訳ありません一護様、本当は何か贈り物をしたかったのですが…」

「ああ、そんなの別にいらねぇって!来てくれただけで十分だよ」


そもそもシロは義魂丸だから、冬獅郎が義骸を抜けている間しか行動できないのだ。

そんなものを用意する時間などなくて当然だろう。

…あれ、そういえば。シロがいるってことは、冬獅郎はどこ行ったんだ?


「けれども、それでは私の気が済まないのです。それで、松本副隊長にお聞きしたら贈り物の代わりにこうしろと」

「ん?」

屈んで下さいといわれて素直に屈んでしまうのは弟のように可愛いシロだからであって、決して冬獅郎が言うように

貞操観念が薄い(何だそれ意味分かんねぇし)とか隙だらけだとかそんなことはないと思う。思うのだけれど。



ちゅっ。



左頬で、なにやら可愛い音がした。


「おわっ」


まさかいきなりキス(ほっぺにだけど)されるとは思わなくて、思わず赤面して飛びのいた俺に、シロはちょっと

悲しそうな顔をした。


「申し訳ありません…ご迷惑でしたか…?」


そんな今にも泣き出しそうな顔で言われて、迷惑だったと言えるようなヤツは人間じゃないと俺は思う。

湖面が揺れるように翠の瞳が煌いて、俺は慌ててシロの頭を再び撫でた。


「いやちょっといきなりで驚いたっつうかだな、別に嫌とかじゃねぇからんな顔すんな。な?」


つーか松本さんはシロに何教えてくれてるんだ?とは思うものの、実際別に嫌ではなかったのでそういって

笑ってやると、はい、と控えめにうなずいて微笑んだ。

正直、冬獅郎の顔でそういう風に笑われるのはちょっと心臓に悪いのだがそれはシロに悪い気がするので

内緒だ(松本さんはアレは分かってやってるのよとか言ってたけどそんな筈はない)。

…あー、でも…冬獅郎といえば…。

にこにこしているシロを微妙な気持ちで見つめていると、どこからか大きな霊圧がものすごいスピードで近づいて

くるのを感じた。


うん、そろそろ来る頃だと思った。



「一護ーーー!!」

死覇装姿の冬獅郎が俺の前に飛び降りてきて、傍にシロの姿を認めるや否や俺の胸倉を掴んで思いっきり顔を

近づけた。怒った顔も綺麗だけどちょっと苦しい。


「言え一護!あいつに何された!?」

「何って言われても…」

「いいから言 い や が れ !」


どうも冬獅郎はシロにヤキモチというか、疑惑の目を向けることが多いのだ。

シロは子供(実際はどうか知らないんだけど)だし体は冬獅郎の義骸なんだしそんな気にするようなことは何もないと

思うのだが。

でも、今日はあれだ、頬にキスされるという驚きの事態があったわけで。

恐らくは冬獅郎も松本さんに何かしら言われて飛んできたのだろう。

松本さんなら面白がってそういうことをやりそうだ。

ちらりとシロのほうを伺ってみれば、シロはこちらに気付くと所在無げに眉を寄せて一歩後ずさった。

冬獅郎の剣幕に怯えているのだろうか。

今この状態の冬獅郎に先程の事を話したら、やはりもの凄く怒るに違いない。

うーんまぁ、仕方がないよな。


「別に何もねぇよ。シロは、普通におめでとうって言いに来てくれただけだぜ?」

「…本当だろうな?」

「本当だって。な、シロ?」


シロが何か余計な事を言うとまたややこしくなるので、それの牽制も含めて話を振るとシロはにこりと笑った。

冬獅郎はまだ腑に落ちないような顔をしていたが、とりあえず手は離してくれたのでよしとしよう。



黒崎一護、17歳になって最初の嘘を吐きました。(しかも恋人に!笑)






2006.7.18 sakuto kamunabi BLEACH TOP