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 カラフル。





   「いっちーっ!こっちこっち、はやくはやくっ☆」

   「おいこらやちる、こっから出んなよ」


   見つめる先では、ピンクとオレンジがちょこちょこと忙しなく動き回っている。

   何が楽しいのかさっきからあちらこちらを行ったり来たり、ピンク色の髪をした子供がオレンジ色の髪をした子供を

   思うがまま振り回している。

   「はー……っ」

   それを、隅の方に腰を下ろしてただ眺めているしかない自分は一体何なのだろうか。

   思わず大きな溜め息を吐きながら、赤い髪の青年は猶も続くまるで鬼ごっこの様なそれを何とも言えない気持ちで見

   ていた。

 
   そもそも今日は、久しぶりの非番で。

   しかも都合よく一護も尸魂界に報告に来ていて、そして。

   それが終わった後、真っ先に自分の所に来てくれたのだ。

   恋人である、恋次の所へ。


   …なのに。


   「何でこんな時に限って、草鹿副隊長に会っちまうんだよ…」


   ちょうど自分も一護に逢いに行こうと思っていたところで、その前に寄った六番隊の隊舎で恋次を探しに来た一護に

   ばったり出くわした。お互いに逢いたいと思っていたのだと知れば、ひどく幸せな気持ちになって。

   何かちょっといい雰囲気になり、じゃあこれから何処行こうかなんてデートの予定を立てていれば、そこに聞こえて

   きたのは…。

   「あ、いっちー!!あーそーぼっ!」

   悪魔の足音だった。


   結局そのままやちるに押し切られて、今一護は彼女と仲良く走り回っているのだ。

   だがこんな事は、今回に限ったことではなかった。

   ただでさえ尸魂界と現世という隔たりのある二人では顔を見ることも簡単には叶わないのに。

   それでも一護がこちらに来た時には何とかお互い時間を作って、やっと二人きりで過ごせるかと思えば。

   必ず何処からかやってくるのだ。数多の邪魔者が。

   それは時に自隊の隊長であったり、他の隊の隊長副隊長であったりさらには十三番隊の幼馴染であったりと実に様々
 
   だ。皆それぞれ忙しい身である筈なのに、それは見事なタイミングで現れては二人の間に入ってくるのだ。

   勿論、恋次と一護が恋仲であると知っていてやっている。皆何とかして彼から一護を奪い去ろうと必死の様だ。

 
   (ま、誰にもやったりしねぇけどな、当然)


   こっちだって、かなり頑張ってやっとの事で口説き落としたのだ。恋愛事に疎い一護に、何とか友人以上に育ってし

   まった気持ちを伝えようとこれでもかと迫りまくり(あくまで口頭のみの話だが)、そうして何度目かの告白で頷いて

   もらえたのは恋次にとっても奇跡に近い感覚だった。

   もっとも、いくら一護でもただの友人の男相手に執拗に迫られたからといってじゃあ付き合おう、という気になる筈

   もなく、実は一護も以前から恋次に対して仄かな恋心を抱いてくれていたのだと知ったのは、少し後になってからだ

   ったのだが。


   しかし、いつもこうだと流石にちょっと悲しくなってくるではないか。

   意外と押しの弱いところのある一護は、そうしてやって来た邪魔者たちが尤もらしい理由で(恋次からしてみれば口実

   以外の何ものでもない理由で)乱入してくれば、疑うでもなく大抵は受け入れてしまうのだ。

   本当はもっとちゃんと二人きりで逢いたい。出かけたり、話をしたり、あわよくば抱きしめてキスとかそれ以上の事

   とかだってしたい。独り占め、したい。

 

   ――――――けれど。

   こうしてやちると遊んでいる一護を見ていると、まぁ今はまだいいか、なんて思ってしまう。

   だって、彼は今笑っているのだ。

   やちるに振り回されているように見えて実は一護自身割と楽しんでいる事を知っている。

   いつもよりか眉間の皺も緩められて、戦っている時からは想像もつかないような優しい眼差しで彼女を見ている。

   妹がいると言っていたので、それと重ねているのかもしれない。

   そんな風に一護に優しい表情をさせるやちるに腹が立たないでもなかったが、でも自分は、それよりももっと柔らか

   く甘い表情をする彼を知っている。恋次と二人だけの時に見せる、そんな顔。

   一護が、確かに自分を好きでいてくれると実感できる、確かな証。

 
   「おい、恋次!俺にばっかやちるの相手させてないでお前も来い。もたねぇよっ」

   「あー?」


   もっともっと、そんな顔を見たいと思うけれど、それでも。

   たまに見せる何かを堪える様な、ぎゅっと眉間に皺を寄せて泣くのを我慢しているかの様なそんな顔よりは。

   こうして笑っていてくれるほうがずっといい。


   「ったく、しょうがねぇな…」

   重い腰を上げて近づいて行けば、僅かに嬉しそうな顔をする。

   そんな彼がたまらなく愛おしい。

   自分が一護を愛していて、一護も自分を好きでいてくれる。

   今はそれで充分。


   「いっちー!」

   「はいはい、今行くよ」


   けれどもいつまでもやちるに一護を独占されたままなのは気に食わないので。

   「ほら、行こうぜ恋次」

   「おう」

   大事な恋人を小さな悪魔から取り返すべく、恋次もまた走り出した。

 
   愛しい彼の笑顔を、もっと近くで見るために。



   「あーっっ!いっちーはあたしと遊んでるんだから!眉毛は来なくていいの!」

   どがっ。

   「ごはぁっ」

   「わーっ、恋次!しっかりしろ!!」





   「あ、あの三人また遊んでる。仲良いねぇほんとに」

   「雛森くん」

   少し離れた隊舎の廊下から見える賑やかな光景。それを見るとはなしに見ていたイヅルが振り返ると、通りかかった

   雛森が楽しそうに目を細めていた。

   「一護君楽しそう。ふふ、いいな、あたしも一緒に遊びたいなぁ」

   「…そうだね…」

   遊んでいる、というよりは、恋次が一方的にやちるに攻撃を受けている様に見えなくもないが。

   まぁだが確かに、楽しそうだ。

   実はやちるよろしく二人の邪魔に入ったこともある雛森とイヅルだったが、本当は一護が笑っていれば、それだけで

   嬉しいのだ。たとえ、他の誰かのものになってしまったとしても。

   気持ちは皆、同じ。


   「赤にピンクにオレンジ。カラフルで綺麗だね」

   そんな雛森の言葉に、イヅルはくすりと笑みを零す。確かに、見た目にも十分賑やかな光景だった。

   「あ!吉良君も混ぜてもらえば?そうしたらもっとカラフルになるよ?」

   あはは、と笑って去っていく雛森を見送りながら、しかし。

   「………」

   赤にピンクにオレンジに、金色。 

   確かにあそこに自分が入れば明るい髪色が揃って賑やかなことこの上ないが。

   そうして割り込んでいって、恋次の様にやちるに蹴り倒されるのは嫌だな、とイヅルは思った。





   2006.4.2 sakuto kamunabi                          BLEACH TOP

  何故かイヅルオチで。
   やちるちゃんって恋次の事なんて呼んでるんですか…ね…orz
   わかんないので「眉毛」…ってまんまじゃねぇかぁぁぁ!!!(微☆妙)
   何気に傍観してますが雛森とイヅルも一護狙いで。泣かせたら恋次は飛梅の錆になると思います。鬼道でも可。