お前は何も気がつかないんだよな。
仕事の事や人の機微とか、その感覚は普段すごく鋭敏で。
何でも見透かしているかの様な鋭い瞳をしてるのに。
でも俺がお前を見つめるその意味に、未だに気がつかない。
いつになったら、その瞳が真実俺を映すだろう。
月夜に背中あぶる
いつからなんて分からないけれど、気がついたときにはもう抗いようがなく。
男だとか死神だとか、そんなことでは否定しきれない程に気持ちは育っていて。
いつだって、その姿を目で追っている自分がいた。
「冬獅郎」
「日番谷隊長だ!」
ぽんと返って来る台詞が楽しくて、ついいつも同じ遣り取りを繰り返してしまう。
睨まれているのに、その鉱物の様な冷たい、けれど暖かな光をも含む瞳に自分が映っている事が嬉しくて。
ああ、綺麗だな、なんて見惚れてしまう。
「お前は随分と暇の様だな? 報告が終わったんなら現世に帰ればいいだろうに。
確か、テストが近いとか何とかで忙しいと阿散井に零していただろう」
「よく知ってんなぁ」
「最近付き合いが悪いと嘆いてたぜ。こんな所で油売ってるくらいなら、相手してやったらどうだ」
ぎゅっと眉間に皺を寄せて、視線は卓上の書類に向けたまま。
さらさらと筆を走らせながらそれでも冬獅郎は俺の話の相手をしてくれる。
筆を持つ細い指も綺麗。
松本さんに煎れてもらった熱いお茶を飲みながら、視線はやはり彼の一挙一動を追ってしまう。
「あー、うんそうテスト近いんだよ。だからほら、今こうして必死に勉強してんだろ?」
「…それを俺の執務室でやる必要が何処にある」
や、何処にもありませんけどね。
「家だと色々煩いし落ち着かなくてよ。ここ静かだし、それに、」
冬獅郎がいるし。
なんてことは言えないけど。
「…一護」
不機嫌そうな声に遮られて、口を一度きゅっと閉じる。
そのまま続けられなかったのは、その険を含んだ声音に怯んだとかいうことではなくて、不意に名前を呼ばれて
どきりとしたから。
いつも名前で呼ぶなと窘められるけれど、ほら。冬獅郎だっていつの間にか俺のこと名前で呼んでる。
勿論嫌じゃないからそこんとこ突っ込んだりしないけど。
そんなことをしたら臍を曲げて今度から名前を呼んでくれなくなるかもしれないし。
自分の名前を紡ぐその薄い唇も綺麗。
そこから零れ落ちるその音がじわりと胸に広がって、何とも云えない気持ちになる。
その低くてどこか甘い響きを持つ声が名前を呼ぶ瞬間が、…好き。
うわなんだそれ。我ながらこっ恥かしい。でもそう思ってしまうのだから仕方がない。
冬獅郎が、好き。
何処も彼処も綺麗で、形は小さいくせにやたら男前な、この男が。
すげぇ好き。
周りからは俺が冬獅郎を弟みたいに可愛がってるとか言われるけど、それは違う。
いや、前はそう思ってたこともあった。
『俺弟欲しかったんだよな』実際に言ったらこれ以上無い位に睨まれた。
きっと冬獅郎も、今でも俺がそういう目で自分を見てると思ってるんだろう。
それならそれでいいと思った。どの道本当の想いは伝えられないから。
でも。今俺がお前を見る目は、妹たちを見るときのそれとは全くの別物だ。
お前のことが好きで好きで仕方が無いって、そういう、目なんだよ。
―――てなことはやっぱり言えないので、目下のところせめて友好な友達関係でも築けたらと思うのだが。
これがなかなか難しい。
名前を呼ぶと嫌がられるし(コミュニケーションの第一歩だと思ったんだが)
理由も無く傍にいることを許してもくれないし(だからいつも必死にその理由を作る)
顔を見せると途端に眉を顰めるし(あ、何か落ち込んできた)
…流石にこれだけつれないと、嫌われてるのかなと思わないでもないのだが。
でも、何故かそんな気にはならないんだよな。俺が図々しいだけか?
とにかくそんな様子の冬獅郎にそれでも俺はほんの少しでも逢いたくって。
今日も今日とて報告を済ませたらいの一番にここに来る。既に習慣になりつつある。
まぁ時折他の奴らに声を掛けられたりして、でもそれらを何とかかわしつつ(でも無理やり引っ張っていかれる
こともあったりして)真っ先にここに来る。
俺結構頑張ってる。
でもそんな俺の苦労なんか知らない冬獅郎は、恋次のとこに行けとか言うし。酷い。
「おい一護、聞いてるのか?」
「あ?あ、ごめん、ちょっとぼーっとしてた」
「…てめぇ、本当に何しに来てんだ」
お前に見惚れに来てんだよ。
「…もういい。そこで勉強でも何でもしてろ。俺は仕事をする」
「おう。頑張れ」
ニカリと笑って言ってやれば、細い指を額に当てて何だか頭の痛そうな顔をしている。
傍にいることを許された喜びに浮かれながら、後で肩でも揉んでやろうと思った。
たぶん冬獅郎は嫌がると思うけどな。
2006.4.2 sakuto kamunabi →冬獅郎side BLEACH TOP
一護さん乙女注意報…orz(not女体化。精神的な話で)
お互い微妙に違うところばかり見ているので一向に進展しません(笑)。
恐らく傍から見たら二人ともバレバレだと思うのですが。
この二人がくっつくのはきっとかなり先になります(駄目駄目じゃん!)